コロナ禍以降、学校のオンライン化はどこまで進んだ? 自主休校生徒へのオンライン支援は?

教育問題

専門家に聞く

2022/04/11

みなさんのお住まいの地域では、学校の授業のオンライン化がどれくらい進んでいるかご存知でしょうか?

全国のまん延防止等重点措置は解除されたものの、新型コロナ第6波の収束が見えない中、中高生たちは新たな学年を迎えます。
2020年3〜6月の全国一斉休校で、授業のオンライン配信やタブレットを使った指導など、学校教育のオンライン化の必要性が叫ばれてきました。
そこから丸2年が経とうという今、学校のオンライン化はどこまで進んできているでしょうか。

公立も8割以上の学校がオンライン授業を導入

コロナ以前からその必要性が指摘されていた教育のICT化は、2020年3〜6月の全国一斉休校を機に前倒しで進められてきました。

しかし、学校や自治体によってそのスピードはさまざまで、一斉休校時にスムーズに対応ができた私立学校と、ほとんど対応ができなかった公立学校とで格差が生まれ、公立離れが進んだという話も出ています。

それから2年後の現在、時事通信社と地方行財政調査会が県庁所在市など74市区を対象に行った調査では、2021年11月の時点での公立小中学校におけるオンライン授業の導入率は84.9%でした。
この数字を見ると、多くの学校がオンライン授業導入を進めているように思えます。

この実情について、成蹊大学客員教授でICT教育に詳しいITジャーナリストの高橋暁子さん(たかはしあきこ 以降高橋さん)はこう話します。

「オンライン授業を部分的に取り入れるなど、実施できる状況ではあります。現在は一部の生徒だけに実施しているという学校もありますが、公立でもおおむね進んでいる状態です。児童・生徒たちにも1人1台端末が配られている自治体が多くなってきています。

2年前の一斉休校時には私立学校の9割以上がICTに対応できたという話もあり、保護者の私立志向が高まる要因にはなりましたが、今はその差は縮まってきています。2022年度に向けて準備を進めてきた学校も多いので、新年度からの体制に期待はできると思います

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自治体による差は継続 一体なぜ

ただ、自治体や学校による差はまだ大きいと言います。

「たとえば、茨城県水戸市はICT化が進んでいます。この1年間でも感染の大きな波が来ているときには自治体からの通達により、小中学校を臨時休校にしてオンライン授業を行うという対応が数回とられていました。一方で、昨年秋にやっと端末が配られた学校や、まだこれからという学校もあります」

自分の自治体や子どもが通う学校がどこまで導入されているかは、自治体や学校のホームページで確認できることが多いので、みなさんもぜひ確認してみてください。
では、このように差が生まれる原因は何なのでしょうか。

「もともと学校のインターネット回線は全員でアクセスすることは想定されておらず、十分に整備されていなかったところがほとんど。ようやく整備が進みましたが、それでもオンライン授業で全員がアクセスすると画面が固まってしまい、授業にならないというトラブルも多く見られました。
また、ここ数年で教員たちもITスキルを伸ばしてはいるものの、十分に活用できていない学校もあります。山梨県内の公立学校の調査で、約2割の教諭が『授業などで端末をまったく使っていない』と回答している例などもあります。
自治体や学校によって教育予算にも差があり、環境やサポート体制が追いついていないところも多い状態です」

設備面だけでなく、教員など使う側のスキルによっても差が出てきたとのこと。
さまざまなハードルはまだあるようですが、もし「うちの学校は遅れている」と感じるならば、積極的に要望を出すのがオススメだと高橋さんは言います。

「今は過渡期なので、保護者の意見も反映されやすい状況になっています。ですから強い思いがあれば、自治体や学校に要望を伝えるとよいでしょう。学校が始まったときに担任に意見を出してもよいと思います」

オンラインor対面、それぞれのメリットを活かしてハイブリッド化へ

オンライン授業ができる環境が整えば、次はその中身が問題になってきます。
中には宿題がタブレットに配信されるだけで、授業や勉強以外の使用が制限されている学校も少なくないのだそう。

「昨年末、東北のある自治体で教育の情報化についての講演を行った際、先生たちから『うちの自治体では端末を持ち帰っても、学校の課題以外のことに使ってはいけないことになっている』という話が出てきました。

そもそも1人1台を目標にしているのは、日本がICT教育に出遅れているからで、その先にはIT人材を増やすという目的があったはずです。その本来の目的を果たすには、生徒たちが自宅学習やプログラミングなどのために自由に端末を使えるのが理想なはずですよね」

自治体や学校によって、ウィキペディアやYouTubeはフィルタリングがかかって利用ができなかったり、夜間には利用ができなかったりと、端末利用に制限がかかっているところも多くあるそうです。これは、子どもが動画やゲームに長時間夢中になってしまったり、SNS上でトラブルが起きたりするのを防ぐためだと考えられます。

「一切制限せず、説明の機会もないまま、よくわからない保護者に『見守るように』と丸投げしているところも問題ですが、制限しすぎて使えないのも問題です。子ども同士のコミュニケーションも一切させていないところもありますが、まだできないからこそ、教員が見えるところで練習のために使わせるという考え方が必要だと思います」

また、何でもIT化すればいいというわけでもなく、対面とオンラインとどちらのほうが学習に効果があるか、経験を元に探っていくことも必要だと言います。

オンライン授業によって学習効率が落ちた、他の生徒の意見が聞けずに学びが深まらない、という声も一定数あります。また、テストはオンライン化が難しいという問題も。
そのため、今後は学校も経験を積み重ねることで、講義はオンラインで聴き、実習・演習形式のものは対面式で行うなど、ハイブリッド化が進んでいくと思います。それによって生徒も先生たちもより時間を効率的に使えるようになっていくはずです」

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自主休校中の子には「学校ならではの体験」もオンラインで

一方で、なかなか収束しないコロナ禍において、本人や家族が健康に不安を抱えているなどの事情で自主的に休校を選択する児童・生徒もいます。

自主休校する小・中学生へ、学びの場と居場所をオンラインで提供する団体「ハロハロラボ」の代表・小川美穂さん(おがわみほ 以降小川さん)は、「自治体や学校による差が早く埋まり、すべての学校でオンラインによるサポートができるようになれば」と話します。
しかし、ただオンライン授業を導入すればいいわけではなく、さまざまな課題があるとのこと。

「タブレット端末に入っているドリルで勉強することはできるけれど、今までの紙の宿題に加えてアプリケーション教材も出されて、同じ範囲を紙とタブレットでやることになった、という子もいます。
また、アプリケーションによっては問題を一度解き間違えたらまたイチからやり直しさせられたり、漢字を正しく書いているのにタブレットが反応しなかったりで、子どもたちの学習意欲をそいでしまうこともあります

また、家庭環境によっても学習のしかたに差が出てくることにも配慮が必要と言います。

ネット環境や設定などを親がサポートできるかどうかによって差が出ないような工夫も考えなければなりません。オンライン授業ができても、急に『明日から休校』となったときに、昼食などの対応ができない家庭もあるでしょう。格差が広がらないよう、細やかなサポートが必要だと感じています」

さらに、小川さんがオンラインによる支援をする中で最も強くニーズを感じるのは、「子ども同士のコミュニケーション」とのこと。

「学校に行きたいけれど休まざるを得ないという子は、他の子たちとの関わりを求めています。クラスメイトと意見交換や雑談をしたい、みんなと一緒に運動会や遠足、修学旅行に行きたいという子が多く、学校でも授業だけでなく、子ども同士がコミュニケーションをとれるようなオンライン化を進めてもらえるといいなと思います」

こうしたサポートもできるようになれば、「今後コロナ禍が収束したとしても、大雪や猛暑など気象状況が登校に適していない地域・時期や、忌引、長期入院、いわゆる不登校の子どもたちにも柔軟に『学校での学び』をオンライン化していけるのでは」と小川さん。
「ゆくゆくは、コロナに関係なくさまざまな事情で学校に行けない子のニーズにも応えられるような体制ができれば」と話します。

オンライン教育ができる環境は整いつつある今ですが、まだまだ課題は山積みです。しかしこれから解決すべき課題には、私立と公立の差はほとんどないはず。今後、全国の教育現場で実践を積み重ねて、よりよい環境が整っていくことを願います。

取材協力

高橋暁子さん(たかはしあきこさん)

ITジャーナリスト。成蹊大学客員教授。
SNSや情報リテラシー教育が専門。スマホやインターネット関連の事件やトラブル、ICT教育事情に詳しい。書籍、雑誌、Webメディアなどの記事の執筆、監修、講演・セミナー、委員などを手がける。NHK『あさイチ』『クローズアップ現代+』などメディア出演多数。SNS関連の著作は20冊以上。教育出版中学校国語の教科書にコラム掲載中。

https://www.akiakatsuki.com/


●小川美穂さん(おがわみほさん)

ボランティア団体「ハロハロラボ」代表。
新潟大学法学部卒業、名古屋大学大学院国際開発研究科修士課程修了後、イオン株式会社グループ人事部、外資系自動車部品製造会社人事部等で人事業務、社内教育、産業カウンセラー業務に従事。 2020年退職後オンラインでの子どもの居場所づくりを開始。 学校に登校してもしなくても、遠足、運動会、給食など子ども時代特有の体験を子ども同士がオンラインでコミュニケーションできるよう、学びと遊びの場、居場所を提供する。

https://note.com/hellohalolab/

<取材・文/大西桃子>

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この記事を書いたのは

大西桃子

ライター、編集者。出版社3社の勤務を経て2012年フリーに。月刊誌、夕刊紙、単行本などの編集・執筆を行う。本業の傍ら、低所得世帯の中学生を対象にした無料塾を2014年より運営。