スマホ時代を生きる思春期の子ども その悩みと保護者ができること

生徒・先生の声

専門家に聞く

2021/10/18

「なぜ人間関係がうまくいかないんだろう?」
「どうしたら誰かに認めてもらえるんだろう?」

いつの時代も変わらないように思える思春期の悩み。それは当事者である子どもだけでなく、保護者にとっても悩みのタネとなります。
特にスマホが普及した近年では、その悩みのあり方にも変化が訪れているようです。

そこで、「子どもと真正面から本音でぶつかり合うこと」をモットーとするスクールFC・花まる学習会・中等部部長であり、 年間のべ1000回以上の生徒面談を行い、保護者への面談も500回を超えるカリスマ塾講師 でもある大塚剛史先生に、思春期の子どもが抱える悩みについてお話を伺いました。

子どもの悩みに対して、親のできることって?

生徒や保護者から、たくさんの悩み相談を受けている大塚先生。
クラスでの人間関係に悩み「学校に行きたくない」と言う女子生徒の保護者から相談を受けた際の事例を教えてくれました。

「同じクラスの男子生徒から、ことあるごとにシャープペンシルの先で刺してくるなどの嫌がらせを受けているという女子生徒がいました。その男子生徒は人間としてまだ成熟していない。そんな人のことは気にしなくていいよと言いました。単純なアドバイスだったのですが、その後保護者から、効果てきめんで学校を嫌がらなくなったと連絡がありました」

目からウロコのアドバイスというよりも、ごくシンプルな答えのように思えますが、彼女には何が響いたのでしょうか。

「近年、思春期のトラブルに関する相談は“何を言うか”というよりも“誰が言うか”が実は大事であることが多くなってきました。このケースでは問題の起こっている学校の外にいる、信頼する大人が言うことが大切だったのです」

では、保護者が子どもの人間関係の悩みについてできることは、何なのでしょう。

「悩みは“生活の外側に師匠を作る”ことで解決する場合が多々あります。したがって、保護者にできることはそのサポートをしてあげることではないでしょうか。
ともすると保護者は子どもの悩みに対して深刻になりすぎてしまう傾向があります。人間関係に関してはなおさらです。子どもと一緒に悩むことで負のスパイラルに陥ってしまったり、保護者が過干渉になってしまうことでかえって問題をこじらせてしまったりすることも。保護者は保護者で、自分の人生をいきいきと過ごしていたほうが、子どもにとってはかえって安心できることだってあるのです。
ただ、子どもが安心して相談できるような場所や人を確保してあげること。これは大切な役割です」

保護者が悩みを聞き出して一緒に考え、アドバイスをするといったことは、あまりしないほうがいいのでしょうか?

「中学生くらいになると子どもは、親の言うことが間違ってはいないことはわかっているけれど、 “正しくても親に言われるとなんとなくムカつく”ようになります。でもこれは本来、喜ばしいことです。
ときに乱暴な言葉で拒絶する子どもに保護者はショックを受けてしまいがちですが、これは思春期になって社会へ向けて独り立ちをする準備ができているということなのです。巣立ちを迎え、羽ばたくために必要な発達の段階で、きちんと自分の頭で考え始めている証が、反抗期だととらえてください」

思春期の子どもの悩みは、保護者が抱え込んで解決しようとするのではなく、外部の信頼できる人に任せるほうが、自立に向けて歩み始めている本人にとっても良い場合がありそうです。

スピード感に大差 思春期世代のコミュニケーション

思春期の人間関係が保護者のイメージとは大きく変わっているとも、大塚先生は指摘します。

「スマートフォンの出現で、SNSをはじめとしたコミュニケーションツールの変化によるスピード感が親世代とは大きく変わりました。あまりに違うので、戸惑う保護者も多く見受けられます。

今は高校や大学に進学するとき、入学前からすでにクラスメートとの友達関係が始まっていることもあります。LINEなどのメッセージアプリやTwitterなどのSNSで、進学先のコミュニティが誰からともなく作られていて、入学する頃にはすでにグループが築かれているということがあるのです。この最初の流れについていけないと、入学後、まわりは仲良しなのに自分だけ一人、といったことが起こり得ます」

スマホでのやりとりやSNSが苦手な子、のんびりした子だと対応できない場合も多そうです。

「インターネット上でのグループは嫌でも目に入ってしまうものです。以前だったら好まない人間関係であれば会わなければ済んでいたのが、SNSの発達によって可視化されるようになっています。そして目につきやすいがゆえに、話についていけなかったり、のけものにされたりすると、孤独も感じやすくなっています。また、無理についていこうとして疲れを感じている子も非常に多いです。コミュニケーションが過多になっていて、心理的コストが親世代に比べて増大しているのです。

ですから、一見ヒマそうにスマホをいじっているだけのように見えて、その実大変な思いをしているのだということを、保護者は知っておいていただきたいですね。今の世代のコミュニケーションへの理解をアップデートしていく必要があるのです」

家ではむやみに「スマホを触らない」ように注意するのではなく、そうした背景を理解したうえで、話し合ってルールを決める必要がありそうです。

「逃げちゃダメだ」と思ってしまうのは人間だけ

中高生の中には、「努力しても、どうしても人間関係がうまくいかない」と悩む子も少なくありません。深刻な例ではいじめの問題がありますが、大塚先生はどのようにアドバイスされているのでしょうか。

「いじめがわかった場合には担任の先生をはじめ、学校側とコミュニケーションをとることが第一だと思います。それでも解決の糸口が見えない場合は、はっきりと“学校へ行かなくてもよい”と生徒や保護者に伝えています。危険を感じているのに『逃げちゃダメだ』と考えてしまう動物は、人間だけです。社会生活を送らないと人間は生きていけないからですが、本来生き物としては正しくありません。“世間体”というものは大人である保護者の価値観であって、悩んでいる本人のものでは決してないはずです」

学校だけが社会ではないと言う大塚先生。“逃げた後”についてはこのように話します。

「しかし、いずれ社会には出なければいけない。自分で生きる手段を見つけなくてはいけない。そのためにできる最も簡単で単純なことは、勉強を続けることです。独学のみで学び続けることは難しいですが、今はオンラインでも学べますし、進学に関しても通信制という選択肢があります。
モチベーションを高めるためにも“外側に師匠を作る”こと、有名人でもいいので目標となるような人を探すことができるとよいと思います。誰かに言われてではなく、自分で探すことが重要です」

そもそも、思春期において人間関係の問題が発生する原因は何なのでしょう。

「思春期の人間関係の悩みは、“誰々に○○と思われている”だとか“××だと見られたくない”という意識に端を発していることがほとんどです。つまり、価値基準を自分以外の誰かに委ねてしまっているということです。現代のコミュニケーションはよくも悪くも他者から影響を受けやすく、自分自身の価値観を持つことを難しくさせてしまいます。しかし、いずれは自分で価値基準を持たなくてはいけません」

そのように価値観のありように揺れ動く思春期の生徒たちには、どのような話をされているのでしょうか。

「人気のYouTuberやインフルエンサーの話を例に挙げることがよくあります。彼らは楽なことをやって毎日を楽しそうに過ごしているように見えるけれど、それはなぜか。彼らも有名になる過程では、まわりからいろいろな声をかけられ、ときにはひどい誹謗中傷も受けています。それでもなぜ楽しそうにしているかと言えば、自分がこれだという道を、己の価値観に従って選んで活動しているからです」

自分の価値観を持っていれば苦難があっても負けずに楽しくやっていける、という前向きな例かもしれませんね。
では、反対にそれができない場合はどのようなことが起こってしまうのでしょうか。

「インターネットで全世界に向けて問題のある言動をとってしまう、ときには大切な命を失ってしまうような事件がなぜ起こってしまうのか。それはよいこと・悪いことの基準を自分自身で持っておらず、他者に依存してしまっているからです。誰かの注目を浴びるため、たとえば高評価や“いいね”のためだけに行動をとってしまうことが多いのです。実際の事件を例にとると多くの生徒は興味も持ってくれるし、納得もしてくれます。具体的な例で考えるトレーニングをするとよいと思います」

世の中で何か事件が起こったときには、「何がいけないと思うか」などを子どもと話し合ってみるのもよいかもしれません。

自分で自分に“いいね”を押してあげられるように

最後に、自分の価値観をしっかり築いてこれからを生きていく中高生のみなさんへ、大塚先生からメッセージをもらいました。

「今の親世代が10〜20代の頃の社会では、目指すべきものや、ほしがるべきものがだいたい決まっていました。トップ校、一流企業、高級車やブランドのファッションなどですね。しかし、以前の社会に比べて現代ではそのようなわかりやすい理想はなくなっています。というより、社会が成熟する中で、全員が無理して同じところを目指す必要はない、ということに多くの人が気づいてきているのです。

他の人と違うことにチャレンジすることが許される空気になったのは、素晴らしいことです。ただし、誰かの目を気にせずやりたいことを続けるのは、簡単なことではありません。だからこそ、他でもない自分が“いいね”を押したくなることかどうかを意識しながら努力し、自分で自分を認めてあげたほうがいい。それが自信へとつながり、結果的に他者からの評価にもつながっていくはずです」

取材協力

大塚剛史さん

スクールFC教務部 花まる学習会・中等部部長

https://www.schoolfc.jp/

<取材・文/ 中島理 >

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この記事を書いたのは

中島理

1981年、北海道生まれ。バーテンダー・会社員を経てライターへ転身。ムックを中心に編集や執筆に携わる。引きこもり経験を持ち、若年層の進学・就労にまつわる心の問題に関心。