小中高で必修化された「プログラミング教育」、実際どこまで進んでる?どう学んでいるの?

専門家に聞く

2022/11/07

2020年度には小学校、2021年度には中学校、2022年度には高等学校で、拡充・必修化されたプログラミング教育

導入前には「プログラミング教育」という言葉から、学校で実際にプログラム技能を学ぶと想像した人も多かったのですが、実は必ずしもそうではありません。そもそも、プログラミングが新しい科目として加わったわけでもないのです。

それぞれの段階では、実際には以下のような内容を学んでいます。

小学校のプログラミング教育

文部科学省が「児童がプログラミングを体験しながら、コンピュータに意図した処理を行わせる」学習活動を実施することとしている。既存の教科の中でプログラミングを体験し、そのよさについて実感を伴って理解したり、コンピュータを動かす際に特有の考え方を学んだりする。

中学校のプログラミング教育

「情報の技術」として、主に技術・家庭科の技術分野(以後、技術分野)授業の中で、これまでにもあった「計測・制御のプログラミング」に加え、「ネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツのプログラミング」についても学ぶことに。

高校のプログラミング教育

従前の内容に比べ、より内容が高度化された「情報I」が必修となり、情報社会における問題発見・解決能力を身につけることが目的となっている。
その中で、問題解決の1つの手段としてプログラミングを学ぶが、必ずしも職業的なプログラミングの専門知識を習得することが目的となっているわけではない。

上記のような新学習指導要領の基本的な内容をふまえ、各学校段階でのプログラミング教育で、生徒たちはどんな学びをしていて、何ができるようになっているのでしょうか?
さらに、プログラミング教育の実施にあたって、新しく出てきた課題はないのか、現状を把握してみたいと思います。

お話を伺ったのは、プログラミング教育を担う先生方向け研修や教材を提供し、プログラミング教育をサポートしているNPO法人みんなのコード。実態を詳しくお話しいただきました。

各学習指導要領に応じた教材や活用法をサポート

まずは、同法人での取り組みについて伺うと、

「小学校向けには、先生が授業ですぐに使うことができるように開発されたプログラミング教材『プログル理科・プログル算数』を提供しています。先生によってスキルに差があり、教材を提供するだけでは実践するのが難しいケースもあるので、教員向け研修も実施しています」(みんなのコード 未来の学び探究部 釜野由里佳さん)

プログルは、たとえば算数ならキャラクターをプログラミングによって動かし、図形を描きながら多角形の性質を学習するといったドリル型の教材となっており、各ステージで課題をクリアしながら自然にプログラミング的思考が学べるようになるとのこと。

「中学校向けの教材としては、『プログル技術』を提供しています。今までの中学の技術の授業では、エアコンを使い、部屋の温度が上がるとセンサーからその情報を得て、温度を下げるというような、計測と制御について学んできました。
ですが、今はネットワークを通じてさまざまなサービスが提供される時代。新学習指導要領でも〝ネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツのプログラミング〟が新しく加わり、『プログル技術』ではこの内容を学べる内容になっています」(みんなのコード 未来の学び探究部 千石一朗さん)

具体的には、「ビジュアルプログラミング」を用いながらチャットアプリを作成し、その仕組みを理解していくものになっているそうです。LINEなどを日常的に使い、写真をシェアするなどの体験も多いけれど、生徒たちはそれがどんな仕組みになっているかわからずに使っていることがほとんど。この教材では、実際に自分でアプリを作成することで、その仕組みも理解できるということです。

「高校には、『プログル情報』を提供しています。実社会でよく使われているプログラミング言語Python(パイソン)を使ったプログラミングの学習ができるほか、天気予報や翻訳などネットワーク上の外部プログラムと連携できるWebAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を教材上から利用できるようになっています」(前出・千石一朗さん)

先生たちがイチから教材を探し出し、それぞれの科目の授業に合わせて使いこなしていくのは大変ですが、みんなのコードではこれらの教材を無償で提供し、スムーズにプログラミング教育を導入できるようにサポートしているとのこと。

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今ある課題に対してITからアプローチできる力を磨く

では、実際に児童・生徒たちはこうした教材を使った指導により、どう変わっていくのでしょうか。

「学習指導要領でも、プログラミング技術そのものを習得することが目的ではないように、全員がプログラマーになるための学習をする必要はありません。
ですから、何ができるようになるかというよりも、何かをやろうと思ったときに、〝これってAIやプログラミングでこんなふうにできるんだったよね〟と気づけることが重要です。

農作業をするにも〝プログラミングを取り入れて効率化しよう〟というように、それぞれの仕事の中でプログラミングをどのように活かせるかを知っていれば、解決策が増えていきます。
実際の技術は専門家に依頼することもできますが、その前にITで何ができるかという知識があることが大切なんです」(前出・千石一朗さん)

これまでは「どうやって動いているかわからない」状態で使っていたものの仕組みを知ることで、さまざまな課題解決に活用できるのではないかと考えることが重要とのこと。

「実際、AIについて学習した小学生が、授業の後に〝AIを使って図書室を整理できないか〟と話し合っていたこともありました。
今は地域の課題や社会問題など、さまざまな課題を見つけてそれについて調べ、解決策を考えていく、正解が決まっているわけではない探究的な問いに立ち向かう教育が広がってきています。その解決へのアプローチの1つとして、プログラミングがあるわけです」(前出・釜野由里佳さん)

また、スマートフォンやパソコンなどが子どもたちの間で当たり前に使われるようになった今、さまざまなサービスがどのような仕組みで動いているかを知ることで、危険な目に遭うリスクも軽減できます。

ただ「ネット上にはこんな危険がある」と教えられるよりも、仕組みについて学ぶことができれば、リスクについてもより具体的にイメージできるようになるでしょう。

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学校の業務のIT化や、教材活用サポートにも注力を!

一方、現場の先生たちは年齢層も経験値も多様で、全員がプログラミングを十分に理解しているとは限りません。ゆえに、学校によって授業内容に差が出てしまうことも懸念されます。

みんなのコードが提供するような無償教材や研修を受けられればよいのですが、教育現場は今後どのように変わる必要があるのでしょうか。

「プログラミングは、教育で扱う中でまだ新しい領域なので、指導法が他の教科のように体系化されていません。また、学習指導要領は10年ごとに更新されますが、そのペースでは進化のスピードに追いつきません。かなり難易度が高いとは思います。

ただ、コンピューター自体は30年以上前から産業界で活用されていて、世界からも日本の技術はすごいと言われてきました。その時点で教育に取り入れる試みはあったのですが、うまく学校教育に根付くことができませんでした。たしかに難しい分野ですが、目を背けていては日本の明るい未来はありません」(前出・千石一朗さん)

実社会に欠かせないツールになっているITを、どう活かせるか考え、先生たちも子どもたちとともに学び続けることが大切だと言います。

「学校の業務を少しでもテクノロジーに置き換えることで、子どもたちや先生同士が関わる時間をより増やすことも大切です。そのサポートを外部ができるのであれば、協力関係を築くことが望ましいですね。
最近ではコロナ禍の影響もあり、児童・生徒のお休みの際に、電話ではなくメールやGoogleフォームを使って連絡してもよいところが増えてきましたが、まだまだテクノロジーを活用できる部分があるはずです」(前出・釜野由里佳さん)

先生の過重労働についても昨今は社会問題となっています。業務をIT化して効率化していくことも、プログラミング教育で教えていることに繋がります。大人たちがまず身近な場面で実践していくことで、子どもたちのプログラミング教育の受け取り方も変わってくるはずです。

現在、全国で進められている「GIGAスクール構想」でも、小中学校では児童・生徒たちへの1人1台端末が実現しました。しかし、使い方に関しては現場の先生たちの裁量に任されていて、使いこなせていないケースもあるのが現実です。活用をサポートするような外部との連携が必要になってくるでしょう。

ITかアナログか、場に応じた選択ができるように

最後に、プログラミング教育を通じて子どもたちに今後どのようなことを習得してほしいか、伺ってみました。

「大きく2つあります。1つは、さまざまな表現方法の選択肢としてコンピューターを使って創造できる力。もう1つは、その場の状況に合った手段を選択できる力です。
必ずしもすべての物事をコンピューターによって解決してほしいわけではなく、アナログとデジタルを使い分ける判断力を持って、社会で活かしていってほしいです」(前出・釜野由里佳さん)

プログラミング教育の必修化の際には、「大学受験などの進路に影響するのでは」と考える人も多く、プログラミング技術を学べる教室・塾も注目されました。ただ、進学のためにプログラミングを学ばせようという考えには違和感を覚えたと言います。

「子どもたちは一人ひとりに個性があります。興味に応じて学びたい内容もさまざまで、多様な選択肢があります。
もしプログラミングが好きでもっと学びたいのなら、通信制高校や工業高校、高等専門学校などには、プログラミングを専門的に学べる学科やコースが存在しています。多様な個性を持つ子どもたちが、好きな分野を活かして社会で活躍できればいいですね」(前出・千石一朗さん)

まだまだ過渡期にあるプログラミング教育を受ける中で、興味を持った生徒は「それをどう使うか」考えながら、専門的なスキルを高めていってもよいかもしれません。

取材協力

特定非営利活動法人みんなのコード

https://code.or.jp/

「子どもたちがデジタルの価値創造者となることで、次の世界を創っていく」をビジョンに、全国でプログラミング教育を含む、テクノロジー教育の普及活動を推進する非営利法人です。公教育におけるテクノロジー教育拡充に向けた政策提言や学術機関と連携した実証研究、プログラミング教材の開発・提供、プログラミング教育を担う先生方向けの各種研修の企画・開催、子どもたちが自由にテクノロジーに触れられる“第三の居場所”づくりなど、幅広い取り組みを行っています。

<取材・文/大西桃子>

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この記事を書いたのは

大西桃子

ライター、編集者。出版社3社の勤務を経て2012年フリーに。月刊誌、夕刊紙、単行本などの編集・執筆を行う。本業の傍ら、低所得世帯の中学生を対象にした無料塾を2014年より運営。